浄土真宗本願寺派 小倉御坊 永照寺
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今月の法話

今月の法話:2012年9月

長月

いただきますが聞こえない

対食の偈
日渓法霖

粒粒皆是檀信(粒々みなこれ檀信(だんしん))
滴滴悉是檀波(滴滴悉くこれ檀波(だんぱ))
非士農非工商(士農に非ず工商に非ず)
無勢力無産業(勢力なく産業なし)
自非福田衣力(福田衣(ふくでんえ)袈裟の力に非るよりんば)
安有得此飯食(安んぞこの飯食を得ることあらんや)
慎莫問味横淡(慎んで味の濃淡(のうたん)を問うことなかれ)
慎莫論品多少(慎んで品の多少を論ずることなかれ)
此是保命薬餅(此はこれ保命の薬餅(やくじ)なり)
療飢与渇則足(飢(き)と渇(かつ)とを療すれば則ち足る)
若起不足想念(若し不足の想念を起さば)
化為鉄丸銅汁(化して鉄丸(てつがん)銅汁(どうじゅう)とならん)
若不知食来由(若し食の来由を知らずんば)
如堕負重牛馬(重きを負える牛馬に堕(だ)す如し)
寄語勧諸行者(語を寄せて諸の行者に勧む)
食時須作此言(食するときすべからず此の言をなすべし)
願以此飯食力(願わくば此の飯食(ぼんじき)の力を以て)
長養我色相身(我が色相の身を長養(ちょうよう)し)
上為法門干城(上は法門の干城(かんじょう)となり)
下為苦海津筏(下は苦海の津筏(しんばつ)となって)
普教化諸衆生(普(あまね)く諸の衆生を教化し)
共往生安楽国(共に安楽園に往生せん)

【意訳】
一粒一粒のお米も一滴一滴のお茶でさえも皆門徒のお供えくださった物ばかりです。僧侶というものは士農工商といったような職業もなく、従って力もありません。如来様のお恵に依らずしてはこの食事を頂くこともできないのです。ただ僧侶は衣と袈裟を身にまとい、お念仏のご相続をさせて頂き、道心あるところに食を得ることができるのであります。それ故、常に謹んで頂くべきであります。その味が濃いとか薄いとか、また量が多いとか少ないとか苦言を言うことは勿体無いことであります。この食事はいのちを保たせて頂く薬となるもので、飢えと渇きとが満たされたら、それで十分満足させて頂かねばならないのです。
もし不足に思うことがあればせっかく頂いて血となり肉となる食事が鉄丸、銅汁に化してしまうでありましょう。どうかお念仏の行者方よ、食前食後にはこの言葉を称え、この心得をよく味わって下さい。願わくはこの頂いた飯食の力をもって、心身共に長く養わせて頂き、上は法門の干城(かんじょう)となり、下は苦海の筏(いかだ)となって、普く多くの人々を教化して共にお浄土へ参らせて頂きましょう。

こういう言葉をとなえながら食と向き合う我々だが、現実の生活はお粗末なもので
「美味いかマズイか」「多いか少ないか」という軸で考えがちである。自らのいのちを投げ出し、本当の布施をしてくださる尊いものを「食べ物」よばわりして平然と暮らしている。このエゴ集団の最前列を、手羽先片手に行進しているのが私である。

ッズキャンプで班をうけもった時のこと。
お皿に、ソテーされたピーマンが苦そうに並んでいる。どうしてもピーマンを食べられない男の子がいた。いろいろと話し合った結果、粗末になるので、私が残ったピーマンを食べることにした。その時「ニガァ~」と顔をしかめると、班の子供達が「もう一回やって」と大喜びするので、たいして苦くもないのに大袈裟なアクションを展開していると、隣に座っていたSちゃんという女の子が「そんな顔したら駄目よ。作ってくれた人に失礼よ。ピーマンにも失礼よ」と叱ってくれた。背筋がピンと伸びるような思いがした。

「本当やね。小さな笑いの為にピーマンと食堂のおばさんを傷つけてしまったね」と謝罪した後、この子にこんな言葉を言わせた背景が知りたくなり「ところでそんなこと誰に教えてもらったの?」と聞くと「おばあちゃん。おばあちゃんは『食べ物を残したり、好き嫌いをしたり粗末にすることは恥ずかしいことよ』って口癖みたいに言うの」
「いいおばあちゃんやね」というとニッコリ笑って「でも、おばあちゃんはいつもニンジン残しとるけどね。私は知っとんよ」そういうと他の子供が「僕のお母さんも『好ききらいするな』っていうけど豆を捨てているのを見たよ」でるでるでるでる大人への不平不満。まあ、結局大人はズルイという結論に達したのだった。

偉そうな理屈をどれ程こねくり回しても、有難がっても、感謝しても、その程度で
消える罪でない。1人を生かすということは多くを殺すという矛盾をはらんでいるのだから。「そんな顔したら駄目よ。作ってくれた人に失礼よ。ピーマンにも失礼よ」この言葉を発したSちゃんは、まだまだ小便ガールだが、発せられた言葉には物凄い力がある。その言葉が警告してくれた。最後にひとつ。こんな素敵な言葉を知っているSちゃんだが「私、胃袋小さからもう無理」と大量の御飯を残していた。

(平成24年9月の法話 担当:村上 慈顕)


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