美しい無駄
Sさんは、お仏壇とお別れすることが決まった。施設の都合上、仕方のない決断だった。僧侶という職業柄このような場面を何度も経験するが、ほとんどの場合、ホコリまみれで、扉が壊れているような状態でお勤めする。これから捨てるのだから当然だろう。
ところがS家のお仏壇はピカピカだった。
本人も正装している。聞けば、いつもの倍以上時間をかけ丁寧に磨いたそうだ。金色に輝くお仏壇の前でお勤めしながら昔聞いた話を思い出した。
大阪のおばあちゃんの話。その家のおばあちゃんは物を非常に大切にする人で、足袋がボロボロになるまで使っていた。いよいよ捨てる時、ボロボロになった足袋を繕うそうだ。
そのまま捨てても、繕って捨てても行先は同じゴミ箱なのにね。
繕った後、足袋に向かって手を合わせて「ありがとさん」と言って捨てる。
捨て方イロイロ。人生イロイロ。
別れは出会い以上に美しい姿を心がけるべきなのかもしれない。
(平成25年7月の法話 担当:村上 慈顕)